「ごめんねオットー、私、人狼なの」
どさ。
持っていたパンを床に落とした。
「ずっと黙ってるつもりだったんだけど、ほら、昨日ゲルトさんが死んじゃったでしょ?」
呆けている僕を他所に、目の前のカタリナは辛そうに目線を横に逸らした。
「あれ、どうも私達の仲間がやっちゃったみたい」
血液が上手く流れない。
何も考えられず、ただただ彼女の言葉が耳から耳を通り抜ける。
「さっき村長さんが言ってたけど、どうも今日から人に化けた狼を探していくみたいなの」
僕の手から落ちたパンを拾い上げると、彼女は躊躇いも無くそれを口にした。
「ん、やっぱり美味しい」
カタリナの綺麗な笑顔。
僕はそんな彼女に、伸ばしかけていた手を途中で止めてしまった。
カタリナが、狼?
そんな。
まさか。
僕の単純な思考を読み取ったのだろうか、彼女の眉が淋しそうに垂れ下がった。
「だから、ね、ここでお別れ」
とん。
彼女の頭が僕の胸を叩く。
「恋人として、貴方の横に居るのはそれはとても幸せだったわ」
――カタリナ!
彼女の小さな身体を抱きしめようと手を伸ばしたが、彼女はするっと僕の胸から逃げてしまった。
「だーめ、さっきも言ったでしょ。ここでお別れ」
くすくす。
いつもと変わらない笑顔を僕に見せる。
「それじゃ、もう行くね。一緒に居ると、辛くなるだけだから」
カタリナは最後まで変わらぬ笑顔を見せると、店の外に姿を消した。
「……嘘、だよね?」
一人店内に残された僕は、誰に聞かせるとも無くポツリと呟く。
彼女が、カタリナが人狼?
あの人一倍怖がりな彼女が?
しかし実際、不可解な殺人事件は起こっているのだ。
そして犯人は――。
さっきまで彼女が居た、僕の胸をそっと見る。
彼女の涙なのだろうか、仕事着であるエプロンが少しだけ濡れていた。
「カタリナ……」
ぎゅ。
濡れた胸元を握り締める。
僕はどうするべきなのだろう。
カタリナを連れて、この村を出るべきなのだろうか。
それともカタリナを告発するべきなのだろうか。
……告発?
そうだ、何故カタリナは人狼である事を僕に告げたんだ?
僕を殺すか、はたまた何も言わなければ解からなかったと言うのに。
「……そうか、そういうことか」
がたん。
音を立てて椅子に座ると、僕は天井を仰いだ。
ははは、なんだ、単純な事じゃないか。
守れば良い。
そう、村人から彼女を守ればいいんだ。
最後に僕と彼女だけが残れば、全ては丸く収まるじゃないか。
多分カタリナもそれを望んでいるのだろう。
だからこそ、僕に告げたんじゃないか。
「こうしちゃ居られない」
僕は仕事着を放り投げると、そのまま店を駆け出した。
こみ上げてくる笑いが抑えきれない。
早くあの小さな身体を抱きしめないと、この身体の震えは止まりそうもなかった。